JOURNAL
2019年12月18日(水)、三菱地所が運営するEGG JAPANのビジネスコミュニティ「東京21cクラブ」にてスタートアップと大企業の交流を促進する「丸の内フロンティア定例会」を開催しました。丸の内フロンティアはオープンイノベーションプラットフォーム「TMIP(Tokyo Marunouchi Innovation Platform)」との共同開催。
今回のテーマは、「不動産テック(不動産×テクノロジー)」。2018年には、不動産テック企業へのスタートアップ投資額が世界で5000億円を超えるなど、市場規模は急速に拡大。日本においても、今後成長が期待される分野となっています。
今回は、リマールエステート株式会社代表取締役社長および一般社団法人不動産テック協会代表理事の赤木正幸さんとリーウェイズ株式会社代表取締役社長および同じく一般社団法人不動産テック協会代表理事の巻口成憲さんがゲストとして登壇。国内外の不動産テックの情勢や今後の動向についてお話いただきました。
多岐にわたるサービスが存在する不動産テック市場
冒頭、赤木さんから不動産テックの概要について語られました。
赤木さん「日本の不動産業界はテクノロジーへの投資額が少なく、労働生産性は米国のわずか4割程度だと言われています。そのため、テクノロジーを活用することで従来の商習慣を変え、業界の生産性を向上するために今活発に動いているのが不動産テック市場です」
リマールエステート株式会社 代表取締役社長CEO・一般社団法人不動産テック協会代表理事 赤木正幸さん
一言で不動産テックといっても、サービスの種類は多岐に渡ります。不動産テック協会が発表した「不動産テックカオスマップ」によると、「管理業務支援」「ローン・保証」「VR・AR」など、12のカテゴリで300以上ものサービスがすでにあるそうです。
なかでも、日本で多くのサービスが生まれている領域が「管理業務支援」です。空室募集や契約締結、施工管理といった、これまでアナログだった不動産管理業務をテクノロジーで効率化。取引のミスや遅れを防ぐだけでなく、業務負担の軽減が期待されています。
テクノロジーによって新たな価値創出を目指すサービスも生まれています。赤木さんは、2019年12月に東証マザーズへ上場した株式会社スペースマーケットを例に挙げました。
同社は、撮影会やパーティーなど様々な利用シーンに合わせて、1時間単位で空きスペースを貸し借りできるプラットフォーム「スペースマーケット」を展開。2019年4月時点で、スペース掲載数は1万1000件、ユーザー数の成長率は年平均350%と発表しています。
赤木さん「これまで駅からの距離や築年数といった条件だけで評価されていた物件が、『写真映え』など新たな観点から評価されるようになりました。不動産テックは、物件の価値を再定義する可能性も秘めているのです」
不動産テック企業への投資のうち全体の半分を占める米国。その最新動向とは
続いて登壇したのは、ビッグデータとAIを活用した不動産業務支援ツール「Gate.」を展開するリーウェイズ株式会社代表取締役CEOで、不動産テック協会の代表理事である巻口成憲さん。巻口さんからは、不動産テックの海外情勢と今後の動向が語られました。
リーウェイズ株式会社 代表取締役社長CEO一般社団法人不動産テック協会代表理事 巻口成憲さん
米国には、不動産テック業界を牽引する四大企業が存在します。巨大IT企業「GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)」になぞらえて「ZORC(Zillow、Opendoor、Redfin、Compass)と呼ばれる4社。どのようにして成長を遂げてきたのでしょうか。
巻口さん「不動産テックが盛り上がり始めたころに登場したのがZillowやRedfinです。両社の主力サービスは、多くの物件情報を掲載する不動産情報サイトですね。細かい違いはありますが、Zillowは日本だと『SUUMO』や『HOME’S』に近いですね。Redfinは自身が不動産ブローカーです。掲載情報の網羅性や正確性が群を抜いただけでなく、AIを活用した住宅価格予測システムを搭載するZillowやRedfinのサイトは利便性も高い。こうした理由から、両社はユーザー数を瞬く間に増やしていきました」
不動産業界を席巻したZillowとRedfin。両社の成功を目の当たりにした競合他社が不動産テック業界に参入し、市場規模は急速に拡大していきました。
しかし、競争の激化に伴い、徐々にある課題が浮き彫りになっていきます。情報サイトの検索性やUIを各社が向上させた結果、サービスとしての差別化が困難になったのです。
巻口さん「次に登場したのが、『iBuyer』と呼ばれる業者です。サイトに物件情報を掲載し取引を仲介するのではなく、業者が自ら物件を買い取り。その後転売するビジネスモデルですね。ユーザーにとっては従来よりも物件を売却するまでの期間が短くなりますし、事業者にとっても物件売却は成約率が高く、収益性も高いのがiBuyerの特徴です。これまでのZillowやRedfinが仲介業だったのに対して、iBuyerは買取転売業と言えます」
そんなiBuyer市場でトップの座についたのがOpendoorです。同社は2018年9月に「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」から約450億円調達したことでも知られ、急速に勢力を拡大。ZillowやRedfinもiBuyer市場へすぐに参入し、競争は瞬く間に加熱していきました。
さらなる競争の激化に伴い、アメリカにおける不動産テック市場には、現在ある動きが生まれていると巻口さんは話します。
巻口さん「最大手であるZillowに負けまいと、2019年7月にOpendoorとRedfinが提携を発表。4大企業の残り1社であるCompassも、他の仲介業者の買収を進めています。不動産テック業界での生き残りをかけて、次々と提携や買収が行われているのです。iBuyerの次なる市場を求め、住宅ローンや保険といった周辺領域にビジネスを拡大させる動きも広がっている。ダイナミックに変化する米国の不動産テック市場から目が話せません」
日本に先行して不動産テック市場を拡大させてきた米国。「国内のマーケット動向を予測するうえでも、アメリカの動きは参考になる点が多い」という巻口さんの言葉で、プレゼンテーションは締めくくられました。
今動き始めた国内不動産テック市場。今後の動向を予測
プレゼンテーションの後は、赤木さんと巻口さんによるパネルディスカッションが行われました。国内外の不動産テックの動向を見続けてきた2人は、2020年の国内不動産テック市場の動向をどう予測するのでしょうか。
赤木さん「賃貸住宅の管理サービスは日本でも徐々に生まれつつありますが、商業施設やオフィスといった事業用不動産管理サービスはまだまだ伸び代があると感じています。事業用不動産を扱う企業のなかには、数千億円規模の運用管理をExcelで行っている企業もまだまだ多い。この巨大市場に食い込んでいけるスタートアップが現れるのを期待しています」
巻口さんも赤木さんの意見に同意しつつ、日本の不動産テック市場で成長が期待されるもう一つの分野をあげました。
巻口さん「僕が注目しているのは、画像解析の分野ですね。最近では、衛星画像を解析することで、人の動きを予測できる技術が生まれています。例えば『この地域には平日よりも休日の方が人は集まりやすい』と分かれば、休日に利用されやすいショッピングモールなどの商業物件を建てる、といった判断ができます。こうしたテクノロジーを活用して、業界の生産性を向上させるスタートアップが少しずつ増えてくるのではないでしょうか」
スタートアップによるショートピッチ。語られた各社の強み
国内市場の動向について語られた後は、不動産テックに関連するスタートアップ3社によるショートピッチが行われました。登壇したのは、共創型IoTプラットフォームを掲げる株式会社ORSO、執行役員CTO佐藤さん、上空シェアリングサービスを展開する株式会社トルビズオン、代表取締役CEO増本さん、リノベーション事業などを手掛けるハプティック株式会社代表取締役小倉さんです。ショートピッチでは、それぞれのサービス紹介と共に、不動産テック市場における各社の強みが語られました。
左から:ORSO 佐藤さん、トルビズオン増本さん、ハプティック小倉さん
終了後は、スタートアップや大企業の新規事業担当者が自由に意見交換を行う懇親会も開催。パートナーシップの可能性を模索する熱い会話が交わされる時間となりました。
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