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ジェンダーギャップを埋めるには?女性の健康問題を解く“フェムテックの可能性” ――Founders Night Marunouchi X vol.29

ジェンダーギャップを埋めるには?女性の健康問題を解く“フェムテックの可能性” ――Founders Night Marunouchi X vol.29

2021年7月28日、三菱地所が運営するEGG JAPANのビジネスコミュニティ「東京21cクラブ」と、イベント・コミュニティ管理サービス「Peatix」が共同開催する「Founders Night Marunouchi X」を実施しました。

今回のイベントで語られたテーマは「フェムテック(FemTech)」。

「Female(女性)」と「Technology(技術)」を掛け合わせた造語で、女性特有の健康問題をはじめとする女性向けのテックプロダクトやサービスを指します。特に、ここ日本で拡大しているのは生理やPMS(月経前症候群)に関連するもの。これまであまりオープンに話されることが少なかったものの、避けては通れないさまざまな悩み・課題がある分野でもあります。

今回は、女性向けヘルスケアアプリを開発している株式会社スルミ代表取締役CEOの石塚つばささんと株式会社三越伊勢丹MD統括部オンラインクリエーショングループデジタル事業運営部長の菅沼武さんをお呼びして、女性特有の健康問題やフェムテックについてお話いただきました。Peatix Japan取締役の藤田祐司さん、東京21cクラブ運営統括の旦部聡志がモデレーターを務めています。

 

AI×フェムテックで、女性の活躍を推進する

イベントの冒頭、各社の紹介とともに女性の健康問題に対する取り組みが語られました。

スルミ・石塚さんはフェムテック領域の事業を手がける起業家。就活で上場企業から内定をもらった際に、人事の女性から「生理は軽いですか?」と聞かれた違和感が起業のきっかけだったといいます。

石塚さん「女性の社会進出が進み、男性と同じように仕事をする女性が増えてきました。しかし、PMS(月経前症候群)や生理など体調面でハンデがあるのは事実でもあります。調べてみると、PMSによって88.6%もの方がストレスを感じていると言われている。また、生理とPMSの期間を合計すると、年間144日もパフォーマンスが低下することになり、年間6,828億円の社会経済的負担につながっているというデータもあります。こんなに大きな課題にもかかわらず、いまだ解決策がない。女性が活躍できる社会にはこの課題解決は不可欠だと考え、起業に至りました」

スルミ代表取締役CEOの石塚つばささん

2020年8月にスルミを創業した石塚さん。当初は、出退勤時に顔の表情からうつ症状の傾向を読み取るプロダクトを開発していました。しかし、2021年3月に発表された日本のジェンダー・ギャップ指数に衝撃を受け、サービスをピボットします。

石塚さん「日本は156カ国中120位。先進国としてあまりの低さに恥ずかしさを覚えました。女性の生理期間が長いことがマイナスにつながっていることは事実。女性が活躍できる社会をつくるには、数年以内に大きな変化を起こせなければ取り返しがつかなくなるかもしれない。すぐに、現在の女性に特化した事業へフォーカスを移しました」

その後開発しているのが、女性向けヘルスケアアプリ「surumi care」。PMSや生理でうつ症状を抱える女性に向けて、AIによるチャットボットの会話を通して認知行動療法をうながします。

また、アプリの機能の一つとして、生理用品の配布にも取り組もうとしています。

石塚さん「ナプキンの購入は最低でも月1,000円、生理用品全般の購入には生涯で100〜200万円かかると言われています。昔から金銭的理由などで生理用品を購入できない方はいましたが、コロナ禍でその課題がより顕在化してきました。今後、自治体やNPOと連携し、生理用品の配布支援を行っていく予定です」

 

イントレプレナー制度から顧客に寄り添った新規事業を展開

三越伊勢丹・菅沼さんは、3年前からCVC・スタートアップ支援に取り組まれてきました。同社では外部の起業家と向き合うだけでなく、イントレプレナープログラムも実施。現場社員からの新規事業創出にも力を入れているといいます。

要らなくなった洋服やバッグなどの買取・引取を行う相談窓口「i’m green」や、マンガやアニメなど日本を代表するコンテンツを三越伊勢丹とコラボして発信する「メディア芸術」、仮想空間内にある仮想伊勢丹新宿店で商品の購入体験ができるアプリ「REV WORLDS」も、そうしたプログラムから生まれたものです。

菅沼さん「我々にとって大事なのは、三越伊勢丹のアセットを使いどのような新しい価値をお客様に提供できるか。そこにつながるのであれば、外部のベンチャー・スタートアップでも社内でも問題ではありません。『熱量の高さ』『事業の成長性』『三越伊勢丹でやる意義』を重視しながら、事業を生み出しています」

株式会社三越伊勢丹MD統括部オンラインクリエーショングループデジタル事業運営部長の菅沼武さん

その中で生まれた事例の一つとして、菅沼さんは家庭の事情や育児、家族の介護などがあっても、短時間で働きやすい仕事を見つけられる「ワンデイワーク」を挙げます。

菅沼さん「ワンデイワークを立ち上げたのは40代の男性社員でした。その奥様が家庭環境の変化から働き方の不安を抱えていたそうです。発想のきっかけは身近な人が課題でしたが、三越伊勢丹はお客様も従業員も女性が多く、さまざまなライフステージにおける女性の雇用は重要なテーマでもある。そこから事業化の道筋を探り、ワンデイワークが誕生しました。テクノロジーを活用して、女性活躍の場を拡張する事業になると感じています」

 

生理やPMSにまつわる悩みは、フェムテックが解決する

両社の女性に関連する分野での課題感や取り組みが共有された後、議論は「職場における女性の健康問題」に展開していきます。

石塚さん「これまで女性が抱える生理やPMSの話は、あまりオープンにされることが多くありませんでした。特に年配の男性は、話しづらそうにする姿も目にしますし、PMSを知らない男性は80%を越えるという調査結果もあります。とはいえ、その調査でもPMSを理解することに対して前向きな男性は多いですし、最近では健康経営の文脈から女性の健康問題に目を向ける方々も増えてきているように感じます」

職場における女性の健康問題に目を向ける重要性について語る石塚さん

石塚さんの話を受けて、菅沼さんも女性の多い職場環境における自身の経験を共有しました。

菅沼さん「三越伊勢丹は従業員の70%が女性の職場。女性の健康問題は決して他人事ではありません。過去には、職場で生理が重く調子の悪い方がいた時にどう対応すればよいか分からず、困った経験もありました。前提となる知識や情報を持つだけでも、大きな意味があると思います」

他方で、女性側が「伝えづらい」という感覚を持つ場合もあると石塚さんは補足します。その距離感を変えていく上で、テクノロジーが必要になるのではないかと言及しました。

石塚さん「男性に対し、生理やPMSのつらさを伝えづらい場面はまだまだ存在すると感じています。それに対して、例えばテクノロジーでパフォーマンスを定量化し、数値から間接的に生理などの健康状態を伝えることもできるでしょう。

また、PMSでストレスを抱える女性は多い。そこで、チャットボットに感情を吐露することで、AIがユーザーを肯定し安心させることができるかもしれません。フェムテックがコミュニケーションの媒介になる可能性もあるのではないでしょうか」

 

顧客ロイヤリティ向上の鍵は、「テック」と「リアルの場」にある

イベントの後半では、女性の健康問題や悩みをサポートすることで、顧客ロイヤルティの向上にどうつながるのか。フェムテックとリアルの場の活用を交えて話が広がりました。

石塚さん「例えば、フェムテックのアプリ内で三越伊勢丹と提携することもできるかもしれません。女性はホルモンバランスが崩れると甘いものが食べたくなるなどの特徴があるので、チャットボットを通して適切な食品や商品などをレコメンドしてあげられると良いのではないでしょうか」

菅沼さんは、リアルな場を活用した取り組みとして、2021年7月28日から始まったフェムテックイベント「センシュアル・ライフ2」を紹介しました。

菅沼さん「センシュアル・ライフ2では、フェミニンケアを中心としたフェムテック関連アイテムを紹介するとともに、オンラインイベントを開催しています。本イベントは、若い方を含めて女性の関心が非常に高い。やはり、リアルの場だからこそ感じられるコミュニティが安心につながるのではないかと感じています」

リアルでのつながりに関連し、参加者から「百貨店を訪れる顧客から、商品以外のプライベートな悩み相談を受けることはあるか?」と質問が投げかけられました。これに対し菅沼さんは「リアル」と「テクノロジー」それぞれの良い側面を活かす必要性を述べました。

菅沼さん「もちろんです。三越伊勢丹は従業員も顧客も女性が中心。リアルの場で活躍するコンシェルジュが、お客様の悩み相談に寄り添うことは不可欠です。オンラインで解決すべきものと、オフラインでのみ実現できること、双方を活かしお客さまと向き合うことが必要だと考えています」

最後に両者から今後の意気込みについて語られ、イベントは幕を閉じました。

石塚さん「女性が抱える健康問題に対し、企業ひいては社会が理解することが必要です。それを通し、私は女性が働きやすい社会をつくっていきたいと考えています。また、私が取り組む“性別による生きづらさ”は女性のみならず、男性にも存在するもののはず。活動を通して、そうした部分を含めジェンダーギャップを埋めていければと考えています」

菅沼さん「多様性やグローバル化など、世界では様々な変化が起きています。その中で三越伊勢丹は、女性が多く働いている職場という特性がある。それを踏まえ、企業として時代の変化に合わせ、前向きな社会をつくるお手伝いをしていきたいです」

イベントの模様はオンラインで配信された

 

▼当日のセッション

 

次回のFounders Night Marunouchiは、8月25日(水)に開催予定です。
どなたでも無料でご視聴頂けますので、こちらよりお気軽にお申込みください。

【過去Founders Night Marunouchイベントレポート一覧】
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