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心電図解析、エキスパートコミュニティ、空のシェアリングなど。未来を開拓する東京21cクラブメンバー5社が登場──丸の内フロンティア定例会「Startup Pitch in Marunouchi」

心電図解析、エキスパートコミュニティ、空のシェアリングなど。未来を開拓する東京21cクラブメンバー5社が登場──丸の内フロンティア定例会「Startup Pitch in Marunouchi」

2021年9月15日(水)、三菱地所が運営するEGG JAPANのビジネスコミュニティ「東京21cクラブ」とオープンイノベーションプラットフォーム「TMIP(Tokyo Marunouchi Innovation Platform)」が共同開催する「Startup Pitch in Marunouchi」を実施しました。

このイベントは、東京21cクラブメンバーに所属するスタートアップ5社がピッチを行い、コメンテーターから事業に対するフィードバックなどを得るものです。

登壇したのは、株式会社Piezo Studio代表取締役の木村悟利さん、株式会社コルシー代表取締役社長の堀口航平さん、株式会社情報基盤開発CFOの千保理さん、株式会社トルビズオン代表取締役社長の増本衛さん、株式会社SWAT Lab代表取締役CEOの矢野圭一郎さん。

コメンテーターを務めるのは、日本ベンチャーキャピタル株式会社常務執行役員の照沼大さん、一般財団法人エンデバー・ジャパンManaging Directorの眞鍋亮子さん、MASSパートナー法律事務所共同代表パートナー溝田宗司さん。

この記事では、白熱したピッチイベントの模様をレポートでお伝えします。

 

Piezo Studio:“タイミングデバイス”の開発を通じて、IoT化の促進に貢献する


株式会社Piezo Studio

 

最初に登壇したのは、東北大発ベンチャー・Piezo Studio代表取締役の木村悟利さん。同社は電子製品の研究・開発を行っています。

同社が持つ競争優位性の一つが、東北大学と共同開発した「CTGS圧電単結晶」と呼ばれる電圧材料です。この電圧材料を独自の技術で小型化し、振動子に組み込んだ「CTGS発振器」が、同社の主力製品だと言います。

「CTGS発振器」はタイミングデバイスと呼ばれる製品に分類され、パソコンやスマートフォン、タブレット端末などの電子機器にも搭載されているそうです。タイミングデバイスについて、木村さんは次のように説明します。

木村さん「タイミングデバイスは、フランスの科学者ピエール・キューリーとその兄が発見した水晶の圧電現象という原理を活用し、主に二つの役割を担う製品です。

一つは、規則正しい基準信号をつくり出す役割。たとえばスマートフォンの場合、時計機能やカメラなど、いくつもの電子回路から構成されています。それらすべてが適切なタイミングで作動しないと、スマートフォンは正常に動きません。タイミングデバイスが正確な基準信号を出し続けることによって、周辺回路は常に正しいタイミングで作動します。この役割は、オーケストラでいうところの指揮者に該当し、まさしく心臓といえる働きです。

もう一つは、安定した周波数を発生する役割です。無線LANやスマートフォンなど、電波を利用する電子機器には、それぞれ別々の周波数が割り当てられています。それによって、混信(同一周波数の電波が混じり受発信が滞ること)を防いでいるのです。

タイミングデバイスには一定の周波数を生み出し、維持できる機能があります。情報通信が欠かせない現代において、なくてはならない存在です。」

昨今、電子機器の省電力化や通信の高速化などに対するニーズは高まっています。こうしたニーズにも、同社が開発する「CTGS発振器」は応えられると木村さんは続けます。

木村さん「既存のタイミングデバイスは、作動開始から実際に機能するまでにタイムラグがあります。おおよそ0.7秒のラグがあり、これは蛍光灯のスイッチを押して実際に明かりがつくまで1分間もかかる感覚に近いです。ラグが長いということは、それだけ電力を無駄に消費しているともいえます。私たちはこの課題を解消すべく、作動した瞬間電流が流れ、スイッチを入れるとマイクロ秒の世界で機能するタイミングデバイスを開発しました」

木村さんは、同社が開発する製品を普及させ、さまざまなIoTデバイスの開発・流通に貢献したいと目標を語ります。

ここでコメンテーターの照沼さんは「製品の技術的な解説だけでなく、たとえば中長期的な事業計画などの説明があると、御社が何を目指しているかより理解できると感じました」とフィードバックを送りました。

日本ベンチャーキャピタル株式会社 常務執行役員 照沼大さん

同社は現在、共同研究開発や技術提供に関する協業相手を募集しているそうです。「ぜひお気軽にご連絡ください」と呼びかけ、ピッチを締めくくりました。

 

コルシー:専門医と患者をつなぎ、医療資源を最適化する

株式会社コルシー

 

続いて登壇したのは、心電図の遠隔判読サービス「CORSHY」を開発・運営している、コルシー代表取締役社長の堀口航平さん。

冒頭で堀口さんは「医療機器は進化する一方で、現場には課題が山積している」と、技術の進歩と実情の間にあるギャップを説明しました。

堀口さん「患者が検査を受ける際に必要な医療機器は、さまざまな進化を遂げています。一方で現場に目を向けると、人手や資金の不足によって検査機器の導入が難しい状態です。仮に導入できたとしても、その機器を必要とする患者数が少なく、設備投資の費用を回収できない問題もあります。

また、医師にはそれぞれの専門分野があるため、一人でカバーできる治療や検査にも限りがあります。その結果、訪れた患者が必要とする検査を行えず、いわゆる病院のたらい回しが数多く発生しています」

医師が専門分野外の診療・検査にあたるケースも少なくないなか、患者の心電図を見て疾患の種類などを把握する判読は、専門外の医師にとって特にハードルが高いと堀口さんは語ります。

同社はこうした課題を解決すべく、患者の心電図を専門医が遠隔で判読するプラットフォームサービス「CORSHY」を開発しています。ユーザーとなる医師は同サービスを活用し、病院やクリニックなどで検査した患者の心電図データを送付することで、専門医による判読結果と具体的なアドバイスが得られると言います。

コルシー代表取締役社長 堀口航平さん

堀口さんは、同サービスのサービス提供を通して「メディカルツーリズムの促進にも貢献していきたい」と将来の展望を語りました。

堀口さん「海外の方が日本に比べ、医療機器を活用して検査すること自体に高い価値を感じやすいとよく耳にします。私たちも日本国内にとどまらず、国外の医療機関とも積極的につながりを持ち、判読や指導のリモート提供などに挑戦したいです」

また、「AI診断の精度が高くなっている印象がある一方で、『CORSHY』では専門医による判読とアドバイスを行っているとのことでした。医師による判読にこだわる理由はどのあたりにありますか?」という眞鍋さんからの質問に対して、堀口さんは以下のように答えました。

一般財団法人エンデバー・ジャパンManaging Director 眞鍋亮子さん

堀口さん「たしかにAIの機械解析は優秀です。実際のところ、弊社にはすでに50万件近くの心電図データがあり、それらを活用してAIの開発に舵を切ることも不可能ではありません。

しかし、いくら解析は優秀でも、その結果をもとに医師や患者に対して具体的かつ的確なアドバイスを行うのはまだ困難です。AI技術の活用も視野に入れつつ、患者が常に最適なアドバイスを得るためのサービスを開発していきたいと思っています」

 

情報基盤開発:紙データをデジタルに変換し、集計・分析を効率化する

株式会社情報基盤開発

 

続いて登壇したのは、情報基盤開発CFOの千保理さん。同社は、紙データの自動入力・集計システム「AltPaper アンケート自動入力」などを展開しています。

「AltPaper アンケート自動入力」は、問診票やアンケート、申込書など紙に書かれた情報を手書き・マークシート問わず、ExcelやCSVなどのデジタルデータに変換できるサービスです。Microsoftに導入されている言語にはすべて対応しており、海外でのアンケート収集などにも活用できると言います。

もともとは旅行代理店向けに販売していたこのシステムですが、新型コロナウイルスの流行により売上が激減。そこで、アンケート集計技術を活かした「AltPaper ストレスチェックキット」の事業により注力する決断をしたそうです。

2015年に、労働者50人以上の企業に対し年1回以上のストレスチェックが義務化されて以来、ストレスチェック実施のためのツールの需要は、高まり続けていると言います。「AltPaper ストレスチェックキット」は、厚生労働省の推奨する調査票を採用しており、紙による受検とWebによる受検、双方に対応している点が特徴の一つだと千保さんは語ります。

千保さん「社会全体でDXが進む一方で、すべての企業が対応しきれているとは言い難い状況です。そうした背景も踏まえ、『AltPaper ストレスチェックキット』はWebだけでなく、あえて紙による受検のためのツールも提供しています。これが、より幅広いクライアントから選んでいただいている理由の一つだと考えています」

情報基盤開発CFO 千保理さん

現在は、ストレスチェック分野における大学との共同開発にも取り組んでいるそうです。今後もプロダクト開発だけでなく、R&DやM&Aの動きを加速させつつ、更なる事業拡大を目指していきたいと、千保さんは意気込みを語りました。

また、「M&Aの話は、実際のところどれくらい進捗がある状況ですか?」という溝田さんからの質問に対しては、以下のように取り組みと状況を説明しました。

千保さん「金融機関への働きかけや外部発信の強化など、M&Aのパートナー開拓により多くのリソースを投下しています。しかし今はまだ、具体的な成果を出すところまではいけていません。

MASSパートナー法律事務所共同代表パートナー 溝田宗司さん

それでも、まだまだ取り組みを始めたばかりのフェーズです。まずは弊社が下請けから入るなど、いきなりM&Aを結ぶ以外の方法も視野に入れながら、引き続き注力していきたいと思います」

 

トルビズオン:“上空のシェア”を通して、世界中の空を更に価値あるものへと変革する

株式会社トルビズオン

 

続いて登壇したのは、トルビズオン代表取締役社長の増本衛さん。同社は、ドローンを飛ばしたいユーザーが、飛行可能な上空エリアを見つけられるサービス「sora:share S MARKET」などを開発・運営しています。

そもそも、民間人が日本の上空でドローンを飛行させるためには、上空の下に位置する土地所有者の理解が必要です。「sora:share S MARKET」は、合意取得のハードルを下げるとともに、ドローンを飛ばしたいユーザーと土地をドローンユーザーに有料で貸し出したい所有者とを結びつけるサービスだと言います。

増本さん「サービスを利用してくださる方々のうち、多くは空撮や飛行練習を目的とされています。今後も私たちがドローンユーザーと土地所有者の架け橋となることで、日本中の空がより有効活用される社会を実現したいと考えています」

このサービスは現在、日本とアメリカでビジネスモデルの特許申請を行っているそうです。

トルビズオン代表取締役社長 増本衛さん

また増本さんは、もう一つのサービス「sora:share S ROAD」の開発・運営を通じて、ドローンによる物流の促進にも貢献していきたいと語ります。

増本さん「部分的な土地所有者の合意だけでなく、より広い範囲でのまとまった理解も得やすくなれば、ドローンによる流通も活発になるはずです。しかし、『リスクを許容できない』『安全の保証がない』などの理由から、まとまった理解を得るのは容易ではありません。鉄道会社や航空会社などとも連携し、広い地域での理解を獲得することで、一本でも多くの“空の道”を開拓していきたいと考えています」

コメンテーターの眞鍋さんからは、「ドローンが実際に飛ぶようになると、安全性よりも騒音による不安の方が、社会的に大きくなるかもしれません。事業を展開していった先に起こりうる潜在課題に対しても、ソリューションをある程度想定・議論しておけると、事業の持続可能性がより高まるかもしれません」とフィードバックを送りました。

 

SWAT Lab:新たな働き方をデザインし、世界中のエキスパートをチーム化する

株式会社SWAT Lab

 

最後に登壇したのは、SWAT Lab代表取締役CEOの矢野圭一郎さん。今回はベルリンからオンライン参加いただきました。同社が提供する「SWAT Lab」は、世界中のエキスパートを一つのプラットフォーム上に集結させ、クライアント企業の課題解決をサポートするためのSaaSです。

SWAT Labのプラットフォームには現在、開発者やマーケター、データ・サイエンティストから学者まで、世界中からさまざまな職種のエキスパートが参加しているそうです。ユーザーとなる企業担当者は、同サービスに自社の課題を登録することで、こうしたエキスパートたちから解決に向けたアドバイスを得られると言います。

具体的には、投稿した課題に割り当てられた20名ほどのエキスパートたちから、非同期でコメントが得られるほか、ZoomによるMTGも実施できるそうです。課題に対する割り当ては、コメントに対するユーザー評価やこれまでのプラットフォーム上での実績をSWAT Labが独自に分析し、最適化される仕組みだと言います。

矢野さんは拠点とするベルリンからリモートで登壇しました

矢野さん「ご存知のように、テクノロジーの発達などが要因となって、ビジネスにおける変化のスピードは加速度的に上がっています。そうした変化に適応しつつ、事業の本質的な成長を実現するためには、社内だけでなく、社外のエキスパートによるサポートも欠かません。

従来はコンサルティング会社や制作会社などに発注することで、外部エキスパートの力を借りるのが主流でした。しかし、働き方も徐々に自立分散型へシフトし、人と企業をつなぎ合わせる手段も多様化するなかで、そのやり方が必ずしも最適になるとは言えません。私たちはそうした背景も踏まえながら、世界中のエキスパートたちが専門分野を越境し、よりコラボレーションしやすい状態を実現したいと思っています」

一方で、ユーザーとなる企業に対しては「SWAT Lab」を通して、組織のDX促進や先端領域の概念実証、人材開発の高速化など、幅広い貢献を実現していきたいと意気込みを語りました。

コメンテーターの照沼さんからは「内部リソースが潤沢ではないスタートアップ企業にとっても、有意義なサービスになる可能性があります。一方で、月額でミニマム10万円からだと、少し高額で利用しづらいかもしれません」というコメントが送られました。それに対し、矢野さんは以下のように考えを共有します。

矢野さん「料金の割り勘を行えるモデルを考えています。具体的には、ベンチャーキャピタル一社から月額100万円をお支払いいただき、その投資先スタートアップは1社につき月額5万円をVCに支払うことで、SWAT Labを活用できるというモデルです」

ベンチャー・スタートアップのみならず、大企業の担当者からも視聴された本イベント。コメンテーターからの鋭い指摘も得られ、大いに盛り上がりを見せました。丸の内フロンティアでは、今後も様々なイベントを企画・実施していきます。次回以降もぜひご期待ください。

 

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