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6Gからスマートシティまで、多様なイノベーションが生まれるフィンランドと日本の共創可能性とは──丸の内フロンティア定例会

6Gからスマートシティまで、多様なイノベーションが生まれるフィンランドと日本の共創可能性とは──丸の内フロンティア定例会

「ヨーロッパのシリコンバレー」とも呼ばれ、多くの有力スタートアップを生み出してきたフィンランド。近年は、先進的なイノベーションを生み出し続ける点にもますます注目が集まっています。同国のイノベーション創出における特徴の一つが、海外企業との連携に積極的であること。日本企業も提携や出資を通じて、さまざまな共創を行ってきました。

フィンランドのイノベーション・エコシステムと、日本の大企業やスタートアップが連携し、より大きな成果や課題解決につなげていくためには何が必要となるのか。そのヒントを探るべく、三菱地所が運営するEGG JAPANのビジネスコミュニティ「東京21cクラブ」とオープンイノベーションプラットフォーム「TMIP(Tokyo Marunouchi Innovation Platform)」は、2021年12月8日(水)に「丸の内フロンティア定例会──フィンランドから見た日本との共創可能性」を共催しました。

登壇したのは、フィンランド大使館商務部で上席商務官を務める渥美栄司さん、BusinessOuluでシニアアドバイザーを務める内田貴子さん、EnterEspooでシニアビジネスアドバイザーを務める清水眞弓さんの3名。現地の最新事情から更なる共創のためのキーワードまでをご紹介いただきました。このレポート記事では、3名によるセッションの内容とその後に行われた東京21cクラブメンバーによるショートピッチリレーについてお伝えします。

 

安定したスタートアップ・エコシステムに日本企業も熱視線

イベントはフィンランド大使館で勤める渥美さんの話で幕を開けました。渥美さんがまず紹介したのは、国の特徴や文化についてです。イノベーションにつながるアイデアの種が次々生まれる理由として、フラットな社会構造や先進的な教育、残業はせず徹底的な効率化を重視する習慣などを挙げました。

そのうえで、持続的なイノベーション創出の要因となっているスタートアップ・エコシステムが実現したきっかけについて、歴史を紐解きながら続けます。

渥美さん「最大の理由は、携帯電話の製造で世界的なシェアを獲得していたノキアが、2010年代に入り経営難に陥ったことだと考えています。国全体に様々なダメージがあった一方で、これを転機にノキアは外資系企業との連携をより積極化しました。結果として、オープンなイノベーションがより多く生まれることにつながったのです。

また、同時期に起業文化をより醸成するための動きが、フィンランド国内で起こり始めたことも影響しています。2008年には、現在日本でも開催されている世界最大規模のスタートアップイベント「Slush」が開始。ノキアが大転換を行うタイミングで独立した人材が、それまでの経験を活かして起業するケースも多く見受けられました」


フィンランド大使館商務部 上席商務官 渥美栄司さん

フィンランドのスタートアップ・エコシステムを支えるのは、同国の継続的な取り組みに他ならないと話す渥美さん。国はリスクを承知の上で、スタートアップから大企業まで、幅広い企業に助成金を拠出していると言います。

また、国全体における企業の資金調達額のうち50%以上を占めるのが海外VCからの調達であることも特徴的だと、渥美さんは続けます。政治情勢が安定しており資金を投じやすい点や、産学の垣根が低く技術開発が進んでいる点などが、競争優位性になっていると述べました。

渥美さんは最後に、フィンランドのスタートアップと日本企業との競争可能性について紹介し、このパートを締めくくりました。

渥美さん「日本市場への参入や企業間提携などを通して、すでに日本企業との共創を行っているフィンランドのスタートアップも多数存在します。また、フィンランドの企業に対する日本企業からの投資実績も徐々に増えている状況です。

今後は日本企業が得意とするバリューチェーンの構築やより早いフェーズにおけるスタートアップ支援、フィンランド企業が生み出した技術の日本国内への導入など、より多様な形での共創が生まれていくことを期待しています。

またフィンランドは現在、国としてICT・デジタル、ヘルス、クリーンテック、バイオ・循環経済の4つの産業領域での成長を特に重視しています。両国の企業にとって、共創の可能性が特に高い領域とも言えるかもしれません」

 

世界が注目する最新技術、日本との連携も

続いては、フィンランドの都市「オウル」のBusinessOulu(オウル市公社、経済室を担う)でシニアアドバイザーを務める内田さんが登壇しました。

BusinessOuluはオウル地域におけるビジネス・雇用の総合窓口として、スタートアップから大企業まで幅広くビジネスを支援していると言います。内田さんは日本担当として勤務しており、これまで数多くのフィンランド企業と日本企業の架け橋となってきました。


オウルの特徴について紹介したスライド

そもそもオウルとは、どのような特徴を持った都市なのでしょうか。上記スライドにあるような特色の他に、ハイテク産業都市としても特徴を持つ土地であると内田さんは説明します。

内田さん「その特徴は大きく3つに分かれます。一つ目は、ICT技術(無線通信技術)のフィンランド研究開発拠点として、充実した設備やリソースがあること。二つ目は、北欧のシリコンバレーと呼ばれているように、スタートアップ・エコシステムがフィンランド全体の中でも特に発達していること。そして三つ目は、産学官の連携が当たり前に行われ、企業や街を含めたエコシステムの活性化を図っていることです。

2018年からは、フィンランドにおける重点研究プログラムとして「6G Flagship」がオウルを拠点に始まりました。オウル大学が主導し、ノキア、VTT(フィンランド技術研究センター)、BusinessOuluなど産学官で協力しながら、最新技術の開発を2026年まで進めていきます。

6G Flagshipは国単位での連携も開始しています。2021年6月には日本の総務省が率いるBeyond 5G推進コンソーシアムと覚書を結び、オウル大学が代表署名をしました。また、2021年11月にはオウル大学に所属する6G Flagshipのディレクターが東京大学のグローバル特別研究員に任命されるなど、通信分野における日本との共創関係はより深まっています」


内田さんと清水さんはフィンランド現地からオンラインで登壇しました

続けて内田さんは、通信分野とは異なる領域においても、日本企業とオウルの共創可能性は徐々に高まっていると続けます。ICT・デジタル化分野の研究、事業化に向けたクラスターとの連携や、ヘルス分野におけるエコシステムへの参画などを具体例として挙げました。

続いて日本企業にとっても大きな共創機会となりうる現地の動きについて紹介し、両国の新たなコラボレーションに期待を寄せました。

内田さん「オウルでは現在、完成すれば世界一の規模となるEtoE広域テストベッド(システム開発で用いられる、実際の運用環境に近づけた試験用プラットフォーム)となる『RADIO PARK』の開発が進んでいます。完成すれば、世界最先端の技術や研究がより多くオウルの地に集まってくるはずです。一例として、ノキアはオウルに古くからオフィスを持っていますが、既に新社屋をオウルに建設すると公表しています。日本の産学官ともこの環境を通じてより連携を深め、新たなイノベーション創出につなげていけると確信しています」

 

スマートシティへの挑戦と、そこにある共創可能性

最後に登壇したのは、フィンランドの都市「エスポー」にて、日本企業のビジネスを支援する「Enter Espo」のシニアビジネスアドバイザーを務める清水さんです。

フィンランドでは、ヘルシンキに次ぐ大都市として知られるエスポー。同国の経済エンジンとも呼ばれる一方で、スマートシティの開発などサステナビリティの実現にも注力している点が特徴だと、清水さんは説明します。


エスポーの特徴について紹介したスライド

経済発展やスマートシティの実現に不可欠な技術力を生み出しているのが、イノベーションハブを中心とした都市の構造。オタニエミという地区の中に、多くのスタートアップを生み出しているアールト大学の本部、国立の技術研究所、アクセラレター・プログラムの拠点、ビジネスインキュベーションセンターなど、イノベーション創出の起点が隣接していると言います。

他方で、オタニエミのすぐ側に位置するのが、ビジネス街として知られるケイラニエミという地区。その中では、KONEやNESTEといったフィンランドの大企業本社や日産自動車の北欧本部などが密接しています。清水さんは「異なる強みを持った産業地区が近接していること」こそが、エスポー最大の特徴であると述べました。

またこれら二つの地区が国のスタートアップ・エコシステムにもたらしている効果について、実例に触れながら話します。

清水さん「先に紹介したオタニエミとケイラニエミの環境を活かし、特にディープテックの分野で有力なスタートアップが、エスポーから数多く誕生しています。これまでにも、オープンソースのデータベース管理システム開発で有名なMySQL、スマホゲームの開発で有名なSuprecellやRovioなど、ユニコーンと呼ばれるような急成長を遂げた企業が生まれてきました。

また近年では、エスポー発のスタートアップであるSensible4が、日本の良品計画と連携し自動運転バスの開発に取り組むといった事例も出てきています。日本とフィンランドの共創は、エスポーのスタートアップを起点に、今後より多く創出されるかもしれません」


写真右上:BusinessOulu シニアアドバイザー 内田貴子さん、写真下:Enter Espoo シニアビジネスアドバイザー 清水眞弓さん

ここで話題は、エスポーが持つもう一つの特徴「サステナビリティ」へと移っていきます。市の独自戦略「Espoo Story」に基づき2011年から本格的な取り組みをスタートした同市は、2030年のカーボンニュートラル達成を目指しているそうです。

エスポーは今後も新技術を積極的に活用し、スマートシティへの移行準備を進めていると清水さんは説明します。

清水さん「スマートシティへの移行は、市営の組織だけでは実現できません。鍵を握るのは産学官の垣根を越えた連携だと考えています。そして、先に紹介したイノベーションハブの企業や研究所が中心となり、多様なステークホルダーを巻き込んだ実証実験がすでに開始しています。

実はこの実証実験には、日本の企業も参画しています。今後もフィンランド国内だけでなく、海外の産学官も巻き込んだ取り組みとして進んでいく予定です。

この実証実験も含め、Enter Espoはエスポーひいてはフィンランドの共創機会に参画するためのサポートを、日本の企業に対して行っています。具体的にはエスポー現地の共創プログラムの紹介、現地企業や研究機関とのマッチングなど、様々な支援を実施しているので、もし興味があればお気軽に私までご連絡ください」

 


 

東京21cクラブメンバー4社によるショートピッチ

「フィンランドから見た日本との共創可能性」のセッション終了後、東京21cクラブの新規メンバーによるリレー形式のピッチが行われました。今回登壇したのは以下の4名です。3分間という限られた時間の中、それぞれが自社の事業や特徴について熱を込めて紹介しました。


高感度センサーを用いた微量水分計を開発するボールウェーブ株式会社にて、取締役事業開発部長を務める塚原祐輔さん


マイクロアクチュエーター(電気などのエネルギーを動きに変換し機器を作動させる装置)を活用した液体制御装置の開発などを行う株式会社アイカムス・ラボの小此木孝仁さん


2021年3月に設立されたばかりのCVC・富士通ベンチャーズ株式会社にて代表取締役社長を務める矢島英明さん


親子で楽しめる実践型金融教育アプリを開発する株式会社MEMEにて代表取締役を務める齋藤舞さん

今回ご登壇いただいた、ボールウェーブ株式会社、株式会社アイカムス・ラボ、富士通ベンチャーズ株式会社、株式会社MEMEにご興味のある方は東京21cクラブ事務局までご連絡ください。丸の内フロンティアでは、今後も様々なイベントを企画・実施していきます。次回以降もぜひご期待ください。

 

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