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農業の課題を解決するのは「収穫ロボット」? AGRIST代表が語る、農業におけるテクノロジーの可能性───Founders Night Marunouchi vol.41

農業の課題を解決するのは「収穫ロボット」? AGRIST代表が語る、農業におけるテクノロジーの可能性───Founders Night Marunouchi vol.41

2022年728日、三菱地所が運営するEGG JAPANのビジネスコミュニティ「東京21cクラブ」が主催する「Founders Night Marunouchi vol.41」を実施しました。

このイベントは、スタートアップの第一線で活躍する経営者の経験から学びを得るもの。

今回ご登壇いただいたのは、AGRIST株式会社代表取締役の秦裕貴さんです。同社は、テクノロジーで農業の課題解決に挑むために、ピーマンの自動収穫ロボットを開発している会社です。

幼い頃から農業の分野に関心を持ち、「農業が抱える課題を解決したい」という思いを抱いていた秦さん。どのようにその夢を実現しようとしているのでしょうか。今回は、秦さんが会社を創業した経緯やロボットを開発する中でぶつかっている壁や今後の展望などを伺いました。モデレーターを務めたのは、東京21cクラブ運営統括の旦部聡志と運営担当の鈴木七波です。

 

収穫ロボットの力で、農業の「収益性」を上げたい

親戚が農業を営んでおり、幼い頃から自身も農業に強い関心があったという秦さん。北九州にある高等専門学校でエンジニアリングを学んだ後、新規就農することも進路の一つだったと言います。しかし、日本の農業が抱える課題の大きさから、一度はその道に進むことを断念しました。

秦さん「日本の農業は大きく二つの課題を抱えています。一つは『人手不足』。現在農家の平均年齢は67.9歳で、もうすぐ68歳に到達すると言われています。また、農家の高齢化にともない、2030年には農業従事者は今よりも半減するとも予測されています

もう一つは、一人当たりの生産力に収益が依存することです。もしも栽培できる面積が広がったとしても、一人が管理できる範囲には限りがあります。加えて、情勢の変化などによって重油代や肥料代が高騰すると、さらに収益を出しづらい構造になっています」

卒業後は、ロボットやIoT製品などの試作品の受託開発を行う会社を創業。しかし秦さんは「農業への関わり方をずっと模索していた」と言います。そんな秦さんにとって、同社共同代表取締役の齋藤潤一さんとの出会いが、大きな転機になりました。

AGRIST代表取締役社長兼CTO 秦裕貴さん。今回のイベントはオンライン配信で行われた

秦さん「農家の方と一緒に『儲かる農業研究会』という勉強会を開催していた齋藤さんが、たまたま私の母校である高専に、講演で来ていました。『農業の課題をどうにかしたい、そのためには農業で一番労力が必要な収穫を、ロボットが担う必要がある』と語っていた齋藤さんの想いにとても共感しました。

幸いにも私には、機械工学の知識やロボット開発の技術があります。ものづくりの力で農業をよりよくしたい、社会に貢献したいという想いで齋藤さんと開発をスタートしました」

そして201910月、秦さんは齋藤さんと共にAGRISTを立ち上げました。同社が初めに開発したのは、ピーマンを収穫するロボット「L」です。従来の農業ロボットの多くが地面のレールを走るものであったのに対し、「L」はハウス内の上部につけたワイヤーをつたって移動します。それにより、地面のぬかるみや落ち葉などの障害物でロボットが動かなくなることを避けられると言います。

ロボット「L」が実際にピーマンを収穫している様子

 また、秦さんは続けて「L」をはじめとしたロボット開発において大切にする考え方を説明します。それは「ロボットは人間の代わりではなく、人間の能力を補うもの」という考え方です。

秦さん「人間をロボットに置き換えることは、目的にはなりません。重要なのは、農場における『収穫量の総数を上げること』です。

例えば『L』の場合、1分間で1個のペースで適切なサイズのピーマンを判別し、収穫していきます。収穫ペースは決して速くはないですが、夜間も継続的に稼働できるため、農場全体の2030%の収穫を担当することができます。そうしてロボットが収穫し終えた後、取りきれなかったピーマンだけを人間が収穫していく。そうして役割を分担することで農場全体の収穫量を増やし、農家の収益向上にもつなげていくのです」

 

世界に羽ばたき、100年後も持続可能な農業を

 2021年にはシリーズA6社からの資金調達を実施。また、掲げるビジョンや事業内容に共感するメンバーが日本各地から集まり、24名にまで組織規模は拡大しました。

ビジョンの実現に向け、順調に階段をのぼるAGRISTですが、一方でロボット開発に関しては「まだまだ数多くの苦労に直面している」と秦さんは話します。

秦さん「農家からのロボット導入に関する相談は増える一方で、その要望は多岐にわたります。例えば、ピーマンをちょっとずつ収穫してほしい人もいれば、できる限り一気に全て収穫してほしい人もいる。ロボットには低い位置のピーマンを収穫してほしい人もいれば、手が届かない上の方を手伝ってほしい人もいます。そうした様々な要望全てに一度には応えられません。なので優先度をつけて開発していく必要があるのですが、どの機能を優先度高く開発していくかは、常に頭を悩ませています」

また、できる限り多くの要望に対応し、カスタマイズの幅を増やせば増やすほど、どうしても開発費が高額になってしまうという課題もあるそうです。

そこで、同社が目指すのは「AGRISTならではのモデル」を確立することです。AGRISTが開発するロボットの仕組みや強みを伝えた上で、その力が活かせる栽培方法とロボットをセットで提案していく予定だと言います。

秦さん「ロボットはどんな環境でも収穫できるわけではありません。例えば、葉が茂りすぎると、カメラがピーマンを認知できない。一方で、ロボットを第一に考えて環境を整えてしまうことは、私たちの大事にしている『ロボットは人の能力を補うもの』という考え方とずれが生じてしまう。

『ロボットが人間をサポートする』というAGRISTのコンセプトに沿って、農家が受け入れやすく、ロボットも活躍できる最適な環境を模索していきたいと思っています」

最後に、秦さんはAGRISTにおける今後の展望を話し、イベントを締めくくりました。

秦さん「今後は個人の農家だけでなく、新しく農業に参入する企業の方々とも、農業の未来について考えたり、話し合ったりする機会を増やしたいです。また、私たちの開発したロボットとそれに適した栽培方法、およびビニールハウスを一つのパッケージとした『AGRISTモデル』を確立し、農家や農業参入を検討している企業に提案をしていきたいと考えています。

合わせて、障害を持つ方や高齢の方々が農業で活躍できる機会を増やしていくために、『農福連携』という取り組みにも、力を入れていきたいと思っています。

私たちのビジョンは『100年先も続く持続可能な農業を実現する』です。時代の変化に対応し、海外への展開も視野に入れながら、テクノロジーをいかに農業の課題解決に活かしていくのか、常に考え行動を続けていきたいです」

 

▼当日のセッション

 

次回のFounders Night Marunouchiは、8月31日(水)に開催予定です。
どなたでも無料でご参加頂けますので、こちらよりお気軽にお申込みください。

【過去Founders Night Marunouchイベントレポート一覧】
https://www.the-mcube.com/journal/journal_tag/founders-night-marunouchi

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