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デジタル技術の活用で、住みやすい街をつくる。「スマートシティ」や「DX」を軸に活動するスタートアップ6社が登場──丸の内フロンティアシリーズ「Startup Pitch in Marunouchi」
2023年3月15日(水)、三菱地所が運営するオープンイノベーションコミュニティ「The M Cube」が開催する「Startup Pitch in Marunouchi」を実施。今回は、住友商事が運営するイノベーションラボ「MIRAI LAB PALETTE」と共同開催しました。
このイベントは、The M CubeやMIRAI LAB PALETTEに所属するスタートアップがピッチを行い、コメンテーターから事業に対するフィードバックなどを得るものです。
登壇したのは、MIRAI LAB PALETTEより、Qwi(キューイ)CEOの小川涼さん、はこぶん代表取締役の森木田剛さん、ヤモリ代表取締役の藤澤正太郎さん。
The M Cubeよりmatsuri technologies代表取締役社長CEOの吉田圭汰さん、トルビズオン代表取締役の増本衛さん、GIG-A共同創業者兼COOの阪本善彦さんです。
コメンテーターを務めるのは、日本ベンチャーキャピタル株式会社シニアパートナーの照沼大さんと、MASSパートナーズ法律事務所 共同代表パートナー溝田宗司さん、アビームコンサルティング株式会社 NewTechアドバイザーの吉田知広さんです。
この記事では、「スマートシティ」や「DX」をテーマに登壇した6社によるピッチをレポートでお伝えします。
Qwi:学生証のデジタル化を実現するアプリ「Qwi App」
株式会社Qwi
最初に登壇したのは、Qwi(キューイ)CEOの小川涼さん。「学生証のデジタル化」を目指し、学生向けのアイデンティティ認証アプリ「Qwi App」を開発・提供しています。
同アプリは学生証の紛失などの防止に加え、学生個人が興味のあるサービスに出会うための検索・マッチング機能も搭載。マッチング機能では、ユーザーが開示している情報に基づき、各自にマッチしそうなサービスをレコメンドしてくれるといいます。
小川さん「Qwi Appの特徴の一つは、自分のデジタルアイデンティティを自分で保持できることです。たとえば『スポーツが好き』といった趣味嗜好などの情報もアプリ内に記録できる一方で、そうした登録データをステークホルダーに開示するかどうかは、自分で選択できます。
SNSを見ている際に、全く興味のない広告が出てきたり、知らないうちに情報をトラッキングされ『どこで情報が漏れてしまったのだろう』と不安に感じたりする瞬間はないでしょうか。私たちは『Qwi App』の提供を通して、そうした不安の解消も実現したいと思っています」
また同社は、企業向けのAPI認証を簡単にするアプリ「Qwi API」や、飲食やアパレル業界向けのQRコード認証システム「Qwi for business」を開発しています。
Qwi CEOの小川涼さん
現在、ユーザーのDIDによって最適化された広告が表示される「Qwi AdSDK」の開発を進めているという小川さん。これにより、利用者側は決済時に自身のアイデンティティを開示することで、カスタマイズされた広告が見られるようになるといいます。
アビームコンサルティング株式会社 NewTechアドバイザーの吉田知広さん
ピッチを終え、コメンテーターの吉田さんからは、「多くの企業が、既に若者をターゲットにした事業開発に興味を持っているが、現状どうマネタイズし、どうビジネスとして成立させるのかを悩んでいることが多いと思う。御社のサービスと連携すれば、若者の信頼感をより醸成し、より多くの人に周知できるというメリットがあれば、協業する企業も増えるのではないか」とコメントしました。
はこぶん:お客様から“本音”を聞くサービス「ホンネPOST」
続いて登壇したのは、はこぶん代表取締役の森木田剛さん。同社は、顧客が商品やサービスに対して抱くホンネを、匿名で事業者へ届けられる、「心の声の郵便屋」をコンセプトにした顧客ヒアリングツール「ホンネPOST」を展開しています。顧客の声を取り入れた商品・サービスの改善やイノベーションを促進し、競争力の向上を図りたいという大企業・大規模イベント主催者・地方自治体や、手軽に顧客満足度を向上させたい、ローコストで効果的な集客を実施したい個店や宿泊施設、クリニックなどの個人・小規模事業者まで幅広くターゲットにしています。
LINEで気軽に「伝えたいことだけ」を送ることができるため、固定設問式のアンケートや直接の会話、公開評価の⼝コミ・レビューでは引き出せないリアルな声を聴くことができます。届いた手紙から顧客⼼理を可視化することで、潜在的なニーズを掘り起こし、サービス改善や新商品開発へダイレクトに⽣かすことができます。また、顧客と手軽にコミュニケーションができる機能を通じ、顧客へのアフターフォローだけではなく、事業のファンづくりまでサポートしています。
2022年に創業し、2023年2月にサービスをローンチしたばかりの同社。森木田さんは、創業するきっかけとなった前職での経験を語りました。
森木田さん「前職時代は「顧客の声を拾い社内に共有すること」にいつも苦労していました。会話の中で拾われた顧客の声は、目に見えるものがないために「間接情報」となり、チームへの情報共有や正確な課題分析を難しくしています。事業者へのヒアリングを通じ、「顧客起点の課題分析」は、業態問わずあらゆるシーンで課題になっていることに気づき、この課題を解決するために開発したのが「ホンネPOST」です。ホンネPOSTには、「評価ではない素直な感想」を引き出す仕掛けが多く組み込まれており、事業成⻑のカギとなる「良質なフィードバック」が、事業者にまっすぐ届くような設計を⼼がけています。」
「ホンネPOST」の特徴は、顧客の声の「量・質」を最大化するため手前の「認知動線の設計」から後ろの「分析・アフターフォロー」までワンストップでトータルでサポートできるところです。導入現場の特徴に応じた最適な認知動線と、興味・関心を惹くポップ等のメッセージ・デザインをプロのクリエイターが制作し「ふと伝えたくなる体験」を設計します。その状況を構築した上で、使い慣れたLINEから手紙をモチーフにしたUIで簡単に感想を送れることで顧客の手間や心理的なハードルを下げ、「顧客が本当に伝えたいこと」を引き出します。
最後に、森木田さんは今後の展望を語りました。
森木田さん「私たちのサービスは技術的な面では模倣しやすく、今後多くの競合が出てくるかもしれません。そこでいち早く多くの認知を獲得するための施策の実行に加え、競合優位性のポイントを定めていかに素早く開発できるかが肝になります。
躊躇いなどの⼼理的ハードルでコミュニケーションが阻害され、社会が⾮効率になっているシーンは数多く存在します。当社はその交差点に⽴ち、ホンネPOSTを通じて事業者と顧客の間で「⼼の声の流通」を加速させ、手触り感を持った事業成長ができるサービス作りに取り組んでいきます。」
ヤモリ:不動産オーナーのための収支管理ソフト「大家のヤモリ」
次に登壇したのは、ヤモリ代表取締役の藤澤正太郎さん。同社は、不動産オーナー向けの収支管理ソフト「大家のヤモリ」を展開しています。
同サービスを使い管理会社からの明細書をアップロードすると、自動で全てのデータが入力され、オーナーは瞬時に毎月の収支情報を可視化することが可能です。Excelなどの管理でその都度更新する手間をなくし、毎月の手残りを正確に把握できるようになります。
藤澤さんは同社を立ち上げた背景や、サービス開発への想いについて話しました。
また2023年3月には、賃貸管理の事務作業を自動化するサービス「管理会社のヤモリ」を正式ローンチ。今後は、管理会社と共に高齢者向けのlotサービスも開発・提供していく予定だといいます。
吉田さんは「日本では外国人労働者の受け入れが年々増えている一方で、外国人の方が住宅を借りづらいという課題は残っているように思う。ヤモリが、そんな方々に向けて住みやすい場を提供できれば、よりマーケットとして伸びるのではないか」とコメントしました。
日本ベンチャーキャピタル株式会社シニアパートナーの照沼大さん
また、同じくコメンテーターの照沼さんは「マーケットの領域としては競合がいると思うが、新しい視点で面白いと思った」と、同社の取り組みを評価しました。
matsuri technologies:テクノロジーで「たび」と「すまい」の形を変える
次に登壇したのは、matsuri technologiesの代表取締役社長CEOの吉田圭汰さん。
同社は「テクノロジーで『たび』と『すまい』の形を変える」をミッションに、ソフトウェアを主軸に、空間の価値を最大化するソリューション「StayX」を展開しています。
ソフトウェアによって、インターネットでの集客や、リアルタイムでの在庫管理、価格調整、AIを用いた清掃員管理など、ビジネスのあらゆる側面をカバーし、無人での施設運営を可能にしています。民泊/宿泊施設向け無人チェックインの「m2m Check-in」や民泊/宿泊施設向け顧客管理ソフトウェア「m2m System」などを提供しています。既存の空き家等の住宅に対して、テクノロジーを導入し、非対面での予約や決済、入居ができる施設を展開しています。
⾮対⾯での予約、決済、入居ができる宿泊/滞在施設に生まれ変わらせる「StayX事業」を推進
民泊とは、旅行者が住宅の全部または一部を利用して宿泊すること。吉田さんは、世界の民泊市場の現状を踏まえて、日本の民泊事業の広がりに期待を寄せています。
吉田さん「民泊の市場について、世界では旅行者の10%が民泊を利用しているそうですが、日本はたったの0.3%。伸び代しかありません。日本は観光立国を掲げており、観光庁によると2030年には訪日外国人6000万人を目指しています。そこで、いかにインバウンドの方々に来ていただくかを考えたときに、民泊市場を広げることに目を向けないのはもったいないと思います」
照沼さんからは「インバウンド向けの事業である以上、コロナ禍によって受けた影響は少なくなかったはず。どのような意思決定や決断をしてきたのですか」と質問がありました。吉田さんは「おっしゃる通り、本当に大変な思いをしました」と首を立てに振るとともに、事業転換を決断した時期や背景について、振り返りながら言葉を続けます。
吉田さん「転換したのは2020年3月頃です。海外から帰国した多くの方が、2週間の待機のために、空港でダンボールを敷いて寝ていた。そんな方々のための日本における最初の隔離施設の確保に成功し、事業転換に踏み切りました。結果として、事業としては大きな成長を実現することができました」
最後に吉田さんは、「私たちの力だけではなく、様々な企業の方々と協業して、住宅、ホテルなど新しい不動産のかたちを模索していきたい」と今後の展望を語り、同社のピッチを締めました。
トルビズオン:空のシェアリングで、ドローンの「道」を作る
続いて登壇したのは、トルビズオン代表取締役の増本衛さん。同社は、「世界中の空を利用可能にする」をミッションに、ドローン航行のための空のシェアリングサービス「ソラシェア」を展開しています。
同サービスには、航路下にいる土地所有者と空撮りをしたい事業会社をつなぎ、空をシェアするための「sora:market(ソラマーケット)」と、「地権者合意」をつなぎ合わせ、空の道をつくる「sora:road(ソラロード)」の2つの機能があります。実際に、土地を登録してくれた地権者には、同社がインセンティブを支払うという仕組みになっています。
トルビズオン代表取締役の増本衛さん
なぜドローンを飛ばすのに、「道」が必要なのでしょうか。増本さんは、その理由について説明します。
増本さん「ドローンなんだから勝手に飛ばしていればいいのではと思うかもしれませんが、巨大なドローンになると威圧感や風圧など、住民に対して様々な問題をもたらしてしまう可能性がある。他にもドローンが地上に落ちてしまったら、大きな事故にもなりえます。実際、街の人からは『ドローンを飛ばして本当に大丈夫なのか』という声もあります。
そのような背景から、事業者側がリスクを回避し、安心してドローンを飛ばせるように。私たちは空の道を作ろうと思いました」
MASSパートナーズ法律事務所共同代表パートナー溝田宗司さん
2026年までにはIPOを目指していると話す増本さん。コメンテーターの溝田さんからは「海外には競合はいるのか」と質問がありました。
増本さんは、「今のところはない。アメリカや中国と比べると、日本の都市部は国土も狭く、人口密度も高い。もしかしたら日本にいるからこそ思いついた事業アイデアかもしれない」とコメント。加えて、「私たちの事業を日本で成功させ、ゆくゆくは海外進出していきたい」と意気込みを話しました。
GIG-A:多言語モバイル金融サービス「GIG-A(ギガー)」
最後に登壇したのは、GIG-A共同創業者兼COOの阪本善彦さん。GIG-Aでは、多言語で金融サービスを体験できるプラットフォーム「GIG-A(ギガー)」を提供。2023年3月にサービスをローンチし、現在は日本語、英語、ベトナム語の3か国語に対応しています。
同サービスでは、ターゲットとなる外国人就労者のために、日本での銀行口座の開設から日々の送金まで、モバイルで完結できるようサポートをしています。阪本さんはまず、日本の外国人労働者における課題について話しました。
GIG-A共同創業者兼COOの阪本善彦さん
阪本さん「弊社は日本で就労されている外国人に対して、300件を超えるインタビューを実施しました。そこで浮かび上がったのが、日本にある多くのバンキングアプリが英語に対応していないことや、銀行口座を契約するまでの工程が複雑なこと、開設するにあたって信用してもらえないことが多いなど、外国人就労者が様々な課題を抱えていることでした。
一方で厚生労働省によると、日本における外国人労働者は過去最高で182万人を突破。今後もどんどん増えることが予測されており、これらの課題を解消することが必要なのではないかと考えました」
ただ“外国人向けのサービス”というと、差別をされているように感じるのではないか。そんな想いから、同社は日本語にも対応するなど、世界の誰もが使える設計に注力しているそうです。
ピッチを受けて吉田さんは、「そもそも外国人労働者が日本で生活していくために、信頼する情報などを取捨選択しづらいという課題もある。本テーマについては、GIG-A単独で戦っていくのではなく、共創パートナーも含めて力を合わせて進めていくのが良さそうだ」とコメント。それに対して阪本さんは、次のように言葉を重ねました。
阪本さん「パートナーの展開についてはおっしゃる通りです。同じように外国人向けにサービスを展開している多くの企業は、外国人が銀行口座を持っていないことが要因で、サービスを提供できないと話す方が少なくない。近い課題や悩みを抱える方々とも協業し、事業をより成長させていきたいです」
今回がMIRAI LAB PALETTEと初の共同開催となった「Startup Pitch in Marunouchi」。会場には多くの参加者が訪れたほか、各プレゼンに対してはコメンテーターからいくつもの質問やコメントが飛び交うなどの盛り上がりを見せました。
イベント後は、参加した方々の交流を実施して、意見や名刺交換を実施。丸の内フロンティアは、時代のトレンドに合わせた様々なイベントを企画・実施していきます。次回以降もぜひご期待ください。
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