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メンタルヘルスの可視化、製造業DX、水素の利活用、習慣化サポート。テクノロジーで社会変革を起こす4社が登場──丸の内フロンティアシリーズ「Startup Pitch in Marunouchi」

メンタルヘルスの可視化、製造業DX、水素の利活用、習慣化サポート。テクノロジーで社会変革を起こす4社が登場──丸の内フロンティアシリーズ「Startup Pitch in Marunouchi」

2023年7月25日(火)、三菱地所が運営するオープンイノベーションコミュニティ「The M Cube」が開催する「Startup Pitch in Marunouchi」を実施しました。

このイベントは、The M Cubeに所属するスタートアップがピッチを行い、コメンテーターから事業に対するフィードバックなどを得るものです。

登壇したのは、AIMS代表取締役CEOの川又尋美さん、ABILITY代表取締役CEOの冨士元雅大さん、ものレボ代表取締役の細井雄太さん、WizWe代表取締役CEOの森谷幸平さん。

コメンテーターを務めるのは、日本ベンチャーキャピタル株式会社シニアパートナーの照沼大さん、MASSパートナーズ法律事務所共同代表パートナー溝田宗司さんです。

この記事では、AIやデータを活用したサービスを展開する企業4社によるピッチをレポートでお伝えします。

 

AIMS:瞳孔の動きから心身の状態を可視化する「AiLive」

株式会社AIMS

最初に登壇したのは、AIMS代表取締役CEOの川又尋美さん。同社は「痛みのない社会をつくる」をビジョンに掲げ、瞳孔からストレス状態や神経年齢をチェックできるサービス「AiLive」を展開しています。

冒頭で川又さんは、サービス開発の背景にある、メンタルヘルスに関する課題について語りました。

川又さん「症状が急に現れる急性期に入るまで、自分自身の健康状態を把握せずに日常生活を過ごし、結果的にさまざまな弊害に苦しむ方々の姿を見てきました。実際、ある調査によれば、会社などでストレスチェックを受けて『高ストレス状態にある』と診断された人のうち、後に専門医を受診した人は1.8%しかいなかったそうです。

また、私たちが実施したヒアリングでは、『専門家面談が必要と分かっても面談をするのを辞めてしまう』『客観的に判断できないので、漠然とした恐怖感を抱いている』といった声がありました」

 AIMS代表取締役CEO 川又尋美さん

そこで、同社は「医療や診療現場で扱われている、1,000万円する瞳孔の測定器を民主化する」ことを掲げ、自律神経の動きを反映しやすい瞳孔から心身の状態を可視化するAIシステム「AiLive電子瞳孔計」を開発。

「AiLive電子瞳孔計」は、ヘッドマウントディスプレイのようなデバイス。装着したユーザーの目に光を照射して瞳孔を小さくし、元の大きさに戻る過程をAIで分析、たった7秒でストレスや睡眠の状態などを判定できます。これによって、これまで主観的にしか評価できなかった「体の痛みや精神的な疲れ」などを、客観的に診断できるようにするのです。現在、スポーツチームなどの協力を得て、実証実験を進めている段階だと言います。

また、一般消費者を対象とした、心身のコンディションを管理するためのアプリ「mecara」も展開。このアプリはAILiveと連携することで、コンディションの数値化を可能にします。ログを残し、心身の変化を確認できるようにするだけではなく、ユーザー毎のコンディションに合わせた商品をリコメンドしたり、専門医を紹介したりする機能も実装。

他方でAIMSは行政とも連携し、地域から日本の医療を変えるための取り組みも進めていると言います。

川又さん「私たちが開発拠点を構える福島県は、ピースマインド株式会社が2020年に発表した『はたらく人のストレス: 都道府県ランキング』において、心理的なストレス部門のワースト1位となっています。その背景にあるのは、東日本大震災の影響です。

そこで、産官学が連携し、福島県に新たな健康診断の仕組みを提案しました。具体的には、コミュニティにAiLive電子瞳孔計を設置し、メンタルの健康を調査。客観的なデータを元に、適切な医療サービスの提供につなげる取り組みです。

現在、福島には563か所の指定検診場所があります。今後2年間にわたって、この福島モデルを全国に展開しようとチャレンジしていきます」

最後に、川又さんは「最終的には一人ひとりのコンディションを予測できる、ベイマックスのようなロボットを目指すので、楽しみにしていてください」と語り、ピッチを締めくくりました。

 

ABILITY:水素を普及させ、次世代エネルギー社会を創生する

ABILITY株式会社

続いて登壇したのは、ABILITY代表取締役CEOの冨士元雅大さん。同社は、水素を「作る、貯める、運ぶ、使う」仕組みをつくり、次世代エネルギーとしての水素の利活用を推進しています。

現在、世の中に流通している水素の多くは、高圧水素タンクに貯蔵、運搬されています。一方で、ABILITYは大・中・小と異なる大きさの「常圧タンク」に必要最低限の水素を充填。常圧タンクは高圧水素タンクに比べて取り扱いが容易なことから、モビリティ、ヘルスケア、メディカルなど、さまざまな領域での利活用に適しているのです。

 

ABILITY代表取締役CEO 冨士元雅大さん

同社が独自に定めたコンセプト「ECOA Concept(Easy and Convenience Achieve Concept)」に基づき、3つの領域で水素の利活用に取り組んでいると冨士元さんは説明します。

冨士元さん「1つ目は、日常生活領域である『ECOA Activity』です。電動アシスト自動車や電動車いすなどに水素エネルギーを活用する他、水素をつくる際に発生する熱を家や事業所内の熱に交換することも可能です。

2つ目は、モビリティ領域である『ECOA Mobility』です。2人乗り電動自動車やスクーター、小型車両、ドローンなど小型のモビリティに活用できます。

3つ目は、美容、健康領域である『ECOA Healthy』。健康の維持を目的に用いられる水素吸入器は、水を電解装置で分解して水素を発生させており、重くて持ち運びが難しいという課題がありましたが、水素を常圧で充填した容器『水素カートリッジ』を導入することで、小型化と軽量化が実現できます」

最後に、冨士元さんは「海外の大手企業と共に、水素エネルギーを活用した電動アシスト自転車やドローンを開発するなど、クライアントの裾野も広がっています。今後は資金調達にも力を入れていきたい」と語りました。

ピッチ終了後、コメンテーターの照沼さんから投げかけられたのは「水素の利活用を普及させるためのキーサクセスファクターを教えてください」という質問。それに対し、冨士元さんはこう答えました。

日本ベンチャーキャピタル株式会社シニアパートナー 照沼大さん

冨士元さん「鍵となるのは、水素カートリッジの安定供給です。すでに、2023年7月に株式会社アイシンと共同開発に関する契約を結び、カートリッジの軽量化などを目的とした開発を進めています。

また、みずほ銀行産業調査部によると2050年には2000万トンの需要超過が想定されています。ヨーロッパや中国などでは内製化に注力している一方、日本は不足分を補うため、輸入に舵を切ろうとしている状況です。我々が安定供給を担い、水素エネルギー普及を牽引していきたいと考えています」

 

ものレボ:アメリカの航空宇宙産業と日本の製造業をつなぐ、新たな挑戦

ものレボ株式会社

続いて登壇したのは、ものレボ代表取締役の細井雄太さん。同社は「未来のサプライチェーンをつくる」をミッションに掲げ、工場の製造工程をデジタル管理するアプリ「ものレボ」を開発・運営しています。今回のピッチでは、今後注力していく新規事業についてお話いただきました。

同社が開発を進める新たなサービスとは、アメリカの航空宇宙産業に、日本の町工場が生産する精密機械加工部品を提供するためのプラットフォームです。細井さんは、このサービスの開発に取り組んだ背景をこう共有します。

細井さん「スタートアップ企業を含め、アメリカの航空宇宙産業は急成長を遂げており、精密機械加工部品の需要が増えている状況です。しかし、現地にある工場の部品製造が追いつかず、産業の成長を妨げるボトルネックになっています。

一方、日本ではコンビニの数よりも金属加工を手掛ける企業の方が多く、供給能力を有効活用できる余力がある状況です。我々は日本の町工場とアメリカの航空宇宙産業をつなぎ、日本の町工場と航空宇宙産業の成長を支えていきたいと考えています」

​​ものレボ代表取締役 細井雄太さん

これまで、宇宙産業に携わる海外のスタートアップが日本の工場に精密機械加工部品を発注したいと考えても、商習慣や言葉の壁が立ちはだかっていました。この課題を解決するのが、同社のプラットフォームです。ユーザーが必要とする部品の図面を読み取らせると、プラットフォームが自動で適切な工場を選定。見積もりの取得や発注を自動化するだけでなく、品質管理や製造の進捗まで可視化できるのが特徴です。

このようなプラットフォームを開発できた背景にあるのは、既存事業である「ものレボ」によって収集された膨大なデータの存在です。

細井さん「我々は、日本の中小企業向けに製造現場の工程をデジタル管理する『ものレボ』を提供してきました。少量多品種×短納期が求められる製造業のスケジュールや在庫、受発注の管理などを一元化するノウハウと、さまざまなデータを有しています。このデータがあるからこそ、ベストな工場の選定や品質管理を実現するプラットフォームが開発できたのです」

コメンテーターの溝田さんからは「すでに競合も存在すると思うが、どういった競合優位性があると考えているのか」という質問が投げかけられました。

MASSパートナーズ法律事務所共同代表パートナー 溝田宗司さん

細井さん「サプライヤーである工場を多く抱えていることです。このプラットフォームビジネスの肝になるのは、工場を選定するフィルタリング機能。

たとえば、特定の機械がないと製造できない部品の図面をプラットフォームにアップロードし、『1週間以内につくれる工場』と条件を絞り込んで検索すると、わずかな時間で発注候補を選定します。豊富な選択肢をリアルタイムで把握していることと、その中から適切な候補を提示するフィルタリング機能が、我々の強みです」

最後に、細井さんは「現在、100社を超える日本の町工場に『ものレボ』を導入していただいています。それらの町工場とアメリカの宇宙産業をつなぎ、70兆円を超える精密機械加工部品市場を狙っていきたいです」と語り、ピッチを締めくくりました。

 

WizWe:学習や運動の習慣化をサポートする「Smart Habit」

株式会社WizWe

最後に登壇したのは、WizWe代表取締役CEOの森谷幸平さん。同社は「習慣化プラットフォームで100億人をありたい姿へ」をビジョンに掲げ、学習や運動など行動習慣化をサポートするプラットフォーム「Smart Habit」を開発しています。

はじめに、森谷さんが「Smart Habit」を開発した経緯について語りました。

森谷さん「2008年にWizWeの母体となる株式会社WEICに入社し、中国語eラーニング事業に関わっていました。継続的に学習に取り組むユーザーは確実に力をつけていたものの、学習を習慣化できず、力が付いていることを実感できないユーザーの解約が相次ぎ、事業売却の危機に陥っていました。

学習が続かないと成果があがらない事業構造でしたので、行動の習慣化の難しさと重要性を日頃から感じていました。そこで、習慣化をサポートする仕組みを構築。事業売却の前日にMBOにこぎつけ、『Smart Habit』が誕生したのです」

「Smart Habit」の特徴は、人間とテクノロジーの両軸で習慣化を支援することです。ユーザーの学習行動データを「Smart Habit」に蓄積し、解析。そのデータをもとに、最適な学習時間や方法をメンターがフィードバック。加えて、電話やメールなどでユーザーをフォローすることで、最後まで習慣化をサポートします。

WizWe代表取締役CEO 森谷幸平さん

10年かけて習慣化の仕組みとソフトウェアを構築したことにより、これまで高額であったマンツーマンサポートを低価格で提供可能に。実際に「Smart Habit」を利用したユーザーのうち、約7割が習慣化を実現しているそうです。

森谷さん「JRグループが運営するジム『ジェクサー』に導入いただいたところ、入会3ヶ月後の運動定着率が87%に向上し、導入前と比べて、週次の平均来館数は160%になりました。

また、サントリーの『ウエルビーイング向上プログラム(睡眠)』では、良い睡眠の鍵となる毎日の行動を『Smart Habit』に記録することで、習慣の形成をサポートしました。その結果、行動定着率は85%をマーク。これは、一般的な健康増進活動の3倍以上の数値です。実際にユーザーからは『睡眠が改善した』『パフォーマンスが向上した』などといった嬉しい声も上がっています」

「Smart Habit」を活用した習慣化は、学習や運動にとどまらず、食生活の改善など、幅広い領域に応用が可能です。たとえば、とある製薬会社からは、さまざまな症状を抱える方の服薬はもちろんのこと、食事や運動などの生活面もサポートするプロダクトの開発に関する相談が舞い込んでいるそうです。

森谷さん「今後はオープンイノベーションを加速させ、皆さまの事業やサービスの黒衣として、OEMで習慣化をサポートしていきます。我々の名前は『WizWe』です。多くの方のハートに寄り添いながら、習慣化に伴走していきたいです」

ピッチ終了後には、登壇者と参加者の交流会を実施。盛んに意見交換をする様子が見られました。丸の内フロンティアは、時代のトレンドに合わせたさまざまなイベントを企画・実施していきます。次回以降もぜひご期待ください。

 

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