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心電図の遠隔解析サービスで「IT化」を目指す。コルシーが描く医療業界の未来とは───Founders Night Marunouchi vol.44

心電図の遠隔解析サービスで「IT化」を目指す。コルシーが描く医療業界の未来とは───Founders Night Marunouchi vol.44

2022年1025日、三菱地所が運営するEGG JAPANのビジネスコミュニティ「東京21cクラブ」が主催する「Founders Night Marunouchi vol.44」を実施しました。

このイベントは、スタートアップの第一線で活躍する経営者の経験から学びを得るもの。今回ご登壇いただいたのは、コルシー代表取締役社長の堀口航平さんです。同社は医療業界の人材不足に向き合い、テクノロジー×専門医解析による心電図遠隔解析サービス『CORSHY』を展開しています。

長い間、人材不足が課題となっている医療業界。ITが得意な領域から、徐々に業務を効率化していこうとする動きがでています。コルシーもテクノロジーを使って、サービスを提供する一企業です。しかし、「無理矢理IT化を進めるのは間違っている」と堀口さんは言います。

では、同社はサービスをいかに広めていこうとしているのでしょうか?そもそも心電図という領域でどのように医療業界に貢献しているのでしょうか?コルシーの真意に迫りました。

モデレーターを務めたのは、東京21cクラブ運営統括の旦部聡志と運営担当の鈴木七波です。

 

医療業界の人材不足を「心電図の解析サービス」で解決したい

コルシーは心電図を遠隔で判読するサービス『CORSHY』を展開しています。医療機関から検査データを預かり、専門医に渡し、読んだ結果を医療機関に返す。いわば、医療機関と専門医をつなげるプラットフォームとしての役割を担っています。

同社代表取締役社長の堀口さんがサービスを開発したきっかけは、医師・薬剤師のためのキャリアサービスを展開するエムスリーキャリアに勤めていたときに「地方の医師不足」の深刻さを感じたことが大きいと言います。

堀口さん「エムスリーキャリアでは、人材不足地域の医療機関に、希望する勤務条件などを踏まえて、医師採用を支援する仕事をしていました。3年近く医師が入っていなかった機関にフルタイムの方を紹介できた時は嬉しかったですし、非常にやりがいのある仕事でした。

でも、全ての要望に応えることはできず、もどかしさもありました。新しい研修医制度などもあり医師のキャリアの自由度が高まった時代のさなか、少子高齢化も進む、いわゆる僻地と称される場所の状況は深刻なものがありました。2004年度から導入された新しい臨床研修制度では、2年以上都道府県知事が指定する病院に研修を受けることが義務づけられました。そのため、症例数が多く勤務条件も整っている都市部に医師が集中するようになってしまいました。『なんとか医師を紹介してください』と困っている医療機関の方々の声に対して、応えられない辛さを抱えていました」

医療業界の人材不足にはさまざまな原因があるなか、堀口さんは1つの見解を示しました。

堀口さん「医師の専門科目の細分化も一つの要因だと思います。一昔前は、内科や外科、産婦人科などざっくりとした区別でした。しかし、医療の進化とともに、一つの専門科目を診るために必要な知識や技術は膨大になったことで、その反面、医師一人でカバーできる範囲はどうしても狭くなっていってしまった。自ずと医療機関は、地域の医療をカバーするために、複数の領域の専門医を集める必要がでてきます。専門医がいない分野というのが複数ある、さらには医師が見つかっても、必要としている専門医ではないという場合があります」

現地で勤務する医師を紹介する方法だけでは、課題は解決できないと悩んでいた堀口さん。現在、コルシーの代表契約医師として働いている佐野さんとの出会いがきっかけで、新しい糸口を見つけました。

堀口さん「出会った当時、代表医師の佐野が、かつてアルバイトをしていた病院から頼まれてやっていた仕事が、CORSHYのサービスそのものでした。アルバイトをはじめた当時その病院には他に循環器内科の専門医がいなかったため、診療の傍ら、佐野が健診や入院の心電図検査をチェックしていたらしいです。佐野のキャリアチェンジでアルバイトを辞めることになった際、病院のほうから、「画像とエクセルを送るので遠隔で判読してもらえないか?」と提案されたんだそうです。

『同じようなニーズを持った医療機関は、全国でたくさんあるのではないか』という佐野医師の話を聞いて、「これだったら確実に困っている医療機関の役に立てる」と確信しました。心電図解析をはじめリモートでできる医師の業務を支援することで、人材紹介だけではなかなかお役に立てなかった医療業界に貢献できるのではと思いました」

心電図は、ほとんどの医療機関で実施されている検査方法です。しかし、その判読をするのには、時間がかかり、集中力が必要です。心臓に流れる電流を12方向から記録する「12誘導心電図」は一般的な検査方法ではあるものの、解析が難しく、循環器系の専門ではない先生は重篤な病気を見逃してしまう可能性もあるそうです。

2018年、堀口さんは佐野さんを代表契約医師として迎えて、コルシーを創業。開発した心電図遠隔判読サービス『CORSHY』では、心電図のデータを送ってもらうだけで、専門医が判読し、最短1日で結果がでます。また、月に1枚から大量の判定まで対応可能です。

 

大手企業やサービスの連携で、医師の負担を減らせるように

サービスの開発を進めていったものの、IT化が進んでいない病院に導入してもらうのには苦労があったそうです。

堀口さん「いくつかの医療機関でテストマーケティングしたとき、想像以上に紙でのやりとりを希望する人たちがほとんどでした。そこで医療業界のIT化が進んでいない現状を改めて感じました。最初は驚きましたし、ほとんど電子化しているだろうと踏んでいたので出鼻をくじかれたところはあります。ただ、そこでよく考えたときに、病院にとっては、どんな状況下でも医療を継続するのが最優先事項です。災害でネットが使えずに検査が止まったり、電子カルテをハッキングされたりするかもしれない。それでも医療を提供しなければいけないわけです。

それに対して無理にIT化を進めて、そうでなければサービスを提供できませんというのは間違っていると思っていました。IT化で別のリスクを伴うことは確かだからです。

リスクを踏まえた上で各機関が、IT化をするかどうか選択すべきですし、サービスを提供する側はそれに寄り添っていくべきだと思いました。」

現在でも約7割は紙でのやりとりだと言います。IT化をしないという選択をする医療機関を尊重しつつ、堀口さんはどのようにサービスを広げていこうと考えるのでしょうか。

堀口さん「心電図を判読している先生が引退されるタイミングで、『紙からデジタルに変えたい』と相談されたことがあります。医療のデータは、規則により5年間の保管が義務付けられていますが、膨大な紙と倉庫を管理しなくてはいけません。そこで、コストの削減や業務の効率化を目的にCORSHYを導入してみようと声をかけてくれました。

もちろん医療機関のインフラやリソースを考慮し、相談に対応しています。なかにはデータは郵送してもらい、診断結果はメールで返すこともあります。紙とデータどちらも対応しているので、各機関がのぞむ形式に合わせて選んでいただけたら嬉しいです」

「心電図という領域から、医師の負担を軽減していきたい」と堀口さんは語りました。最後に今後の展望を語り、イベントを締めくくりました。

堀口さん「現在は心電図に注力して事業を運営していますが、今後はそれ以外の検査にもサポート範囲を広げていければと考えています。そのためには、パートナー企業との協業が欠かせません。

現在、心電図の閲覧画面からすぐに診断結果が見られるよう、電子カルテのメーカーさんと話しています。このように関わってくださる方々と、知見を共有しながら、医療業界を盛り上げていければと思っています。

『医療業界で、こんな課題を抱えていて』という人がいれば、ぜひ声をかけてください。業界の課題を解決する糸口を一緒に見つけていきたいです」

 

▼当日のセッション

 

次回のFounders Night Marunouchiは、12月13日(火)に開催予定です。
どなたでも無料でご参加頂けますので、こちらよりお気軽にお申込みください。

【過去Founders Night Marunouchイベントレポート一覧】
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