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空飛ぶクルマ、お米由来のバイオマスプラスチック、家族信託、自転車スポーツ。ソーシャルインパクトに特化したビジネスが登場──丸の内フロンティアシリーズ「Startup Pitch in Marunouchi」

空飛ぶクルマ、お米由来のバイオマスプラスチック、家族信託、自転車スポーツ。ソーシャルインパクトに特化したビジネスが登場──丸の内フロンティアシリーズ「Startup Pitch in Marunouchi」

2023年10月3日(火)、三菱地所が運営するオープンイノベーションコミュニティ「The M Cube」が開催する「Startup Pitch in Marunouchi」を実施しました。

このイベントは、The M Cubeに所属するスタートアップがピッチを行い、コメンテーターから事業に対するフィードバックなどを得るものです。

登壇したのは、エアモビリティ 株式会社代表取締役社長&CEOの浅井尚さん、株式会社バイオマスレジンホールディングス 代表取締役CEOの神谷雄仁さん、株式会社ファミトラ アライアンス本部長の宮下暢敏さん、株式会社ジャパンサイクルリーグ 代表取締役の犬伏真広さんです。

コメンテーターを務めるのは、日本ベンチャーキャピタル株式会社 シニアパートナーの照沼大さん、MASSパートナーズ法律事務所 共同代表パートナー溝田宗司さんです。

この記事では、ソーシャルインパクトビジネスを展開する4社によるピッチをレポートでお伝えします。

 

エアモビリティ:「空のインフラ」を整備し、「空飛ぶクルマ」を実現する

エアモビリティ株式会社

最初に登壇したのは、エアモビリティ株式会社 代表取締役社長&CEOの&浅井尚さん。同社は、「空飛ぶクルマ」が安心・安全に航行するための「空のインフラ」を構築するプラットフォームを開発・運用しています。

浅井さん「『空飛ぶクルマ』と聞くと、SFの世界を想像しがちですが、経産省が発表したイメージ動画では2030年代には都市での実用化が拡大し、たくさんのクルマが空を飛ぶと想定されています。

実際、全世界的に市場規模も急拡大しており、モルガン・スタンレーが2021年に結果を公表したレポートによれば、機体開発以外の多様な関連ビジネスを含め、2040年までに約130兆円、2050年には自動車産業の約3倍に相当する1,200兆円規模に達するとされています。世界を変えうるビッグバンが起きようとしているのです」

エアモビリティ株式会社 代表取締役社長&CEO 浅井尚さん

道路などの整備によって自動車を安心して走らせられるように、空飛ぶクルマを実現させるためには、インフラの整備が欠かせません。エアモビリティは、さまざまな事業者と協働しながらナビゲーションシステムや、予約システム、保険販売システムなどを統合したプラットフォームを開発することによって、「空のインフラ」を構築しようとしています。

また、空飛ぶクルマを購入できる販売ポータルサイト「AeroBuy」を開設し、現在はドローンを販売。他にも機体の修理や保管サービスを準備するなど、ありとあらゆるアプローチを取りながら空飛ぶクルマの実現に邁進しています。

まだ誰も足を踏み入れていない未知の領域でビジネスを展開する同社。浅井さんは、成功の鍵をこのように語ります。

浅井さん「フライトデータが鍵になると考えています。データをクラウド上に蓄積し活用することによって、空飛ぶクルマに関するさまざまなビジネスを生み出せる。だからこそ、私たちは空のインフラとなるさまざまなシステムを統合したプラットフォームを開発する中でも、特に『ナビゲーションシステム』の開発・普及に力を入れていきたいと考えています」

空飛ぶクルマを通じたビジネスは、まさにこれからが本番です。現在は、物流ドローンのニーズが高まっていることから、実現に向けた第一歩として、ドローン向けのナビゲーションシステムを提供していくと浅井さんは言います。

最後に浅井さんは、「空飛ぶクルマのトータルソリューションを展開するにあたって、パートナー企業の存在は欠かせません。資本提携パートナーとして、空飛ぶクルマの航行をサポートするビジネスを一緒に展開していきましょう」と語り、ピッチを締めくくりました。

 

バイオマスレジンホールディングス:アジアを代表する「エコロジー×アグリカルチャーカンパニー」を目指す

バイオマスレジンホールディングス

続いて登壇したのは、バイオマスレジンホールディングス 代表取締役CEOの神谷雄仁さん。同社は、お米由来のバイオマスプラスチック「RiceResin(ライスレジン)®︎」や生分解性プラスチック※1Neoryza(ネオリザ )」を開発しています。

※1…自然界に存在する微生物などの働きによって、水と二酸化炭素に分解される性質を持つプラスチックのこと。

神谷さんは2022年9月にもStartup Pitch in Marunouchiに登壇し、「RiceResin®︎」についてご紹介いただきました。前回の登壇から約1年。同社の事業は、どのような展開を見せているのでしょうか。

神谷さん「2022年以降、海外からも私たちの取り組みを評価する声が届くようになりました。国内では、主にお米がバイオマスプラスチックの素材として用いられていますが、海外ではキャッサバやビーツなども活用されています。

私たちの技術は、さまざまな素材に応用可能です。世界中でさまざまな素材からバイオマスプラスチックを生み出すためのアプローチを開始するにあたり、独自技術を『Green compound』と名付けました」

バイオマスレジンホールディングス 代表取締役CEO 神谷雄仁さん

バイオマスレジンホールディングスにとっての転機は、2020年7月、「RiceResin®︎」を30%配合したレジ袋が日本郵便に採用されたことだったと言います。そこから急激に「RiceResin®︎」の採用事例が増加し、2023年10月までには約800アイテムを開発してきました。

また、2023年9月には「RiceResin®︎」と「Neoryza」に次ぐ第三のソリューションとして、高吸水性ポリマー「Riace」を発表。SAPとは、高い吸水性能を有する高分子材料のことで、紙おむつなどに使用されています。従来品には石油由来かつ非生分解性の原料が用いられていたことから、環境負荷が大きいという課題がありました。

しかし、お米を素材とする「Riace」は生分解性であるため、この材料を使用している紙おむつは、使用後回収し、分解することで肥料として再利用できるのです。同社は環境省と共に、紙おむつのリサイクルに関する取り組みをスタートさせています。さらに「Riace」は保水力が高いことから、農業用の土壌改良材や肥料としての活用が期待でき、すでに農業製品マーケットへ進出準備を開始していると言います。

これまで、同社は余剰米を活用してプロダクトを開発していました。しかし、現在は原料となる「工業用米」を内製することに注力しているそうです。徹底的に米を大切にしながら、ビジネスを展開する同社。その姿勢は、国をも動かしました。

神谷さん「我々の取り組みが政府に認められ、国が備蓄している古いお米を買い受け、国産のプラスチック樹脂原料に使用させていただけるようになりました。

さらに今後は、メタンを排出しないお米づくりに取り組むなど、原料の生産からプロダクトの再利用までを包括したサーキュラーモデルに進化させていきたいと考えています」

最後に神谷さんは、「我々の技術で、日本においてのみならず海外でもパラダイムシフトを起こし、社会を変えていきます。『Plastic innovation for tomorrow』をスローガンに、アジアを代表するエコロジー×アグリカルチャーカンパニーを目指していきたいです」と意気込みを語りました。

 

ファミトラ:「家族信託」で、資産の凍結を防ぐ

株式会社ファミトラ

続いて登壇したのは、株式会社ファミトラ アライアンス本部長の宮下暢敏さん。同社は、認知症による資産凍結を防ぐ、家族信託サービス「ファミトラ」を運営しています。

冒頭で、宮下さんは高齢者の認知症等による資産凍結の問題に言及しました。

宮下さん「日本における65歳以上の人口は、約3,600万人です。そのうち、5人に一人が認知症患者だと言われています。仮に認知症を発症してしまった場合は判断能力がないとみなされ、不動産を売却できなくなったり、銀行口座からお金が引き出せなくなったりと、さまざまな問題が発生します。

金融機関や行政は、判断能力が低下した本人に代わって、家庭裁判所によって選ばれた後見人に財産管理を任せる『成年後見制度』を案内しているのですが、実際にご家族が後見人になるケースは年々減っており、直近では約8割のケースで弁護士などが選任されています。

その場合、ご家族は毎月数万円を後見人である士業従事者に支払い続けなければなりません。つまり、認知症を患った親の口座からお金を引き出すためだけに、お子さんが数百万ものコストを投じなければならない場合がある。また、一度選任した後見人は解任できないなど、この制度にはさまざまな問題が潜んでいるのです」

株式会社ファミトラ アライアンス本部長 宮下暢敏さん

これらの課題を解決するために同社が立ち上げたのが、家族信託サービス「ファミトラ」です。

家族信託とは、親が元気なうちに、子どもなどの家族と資産の管理・運用・処分に関する契約を結ぶことを指します。従来の家族間の信託契約は、信託銀行などが間に入り、取り交わされるケースが多く、その費用は150万から200万と手軽に交わせるものではありませんでした。また、取り扱える資産にも制限があったと言います。

「ファミトラ」は、「家族信託組成サポートサービス」と「信託監督人サービス」によって構成されており、初期費用は5万円から、継続利用は月980円からの利用が可能です。ユーザーの課題や希望をヒアリングしたうえで、最適な家族信託組成プランを提案。さらに、家族信託の開始後に安心してお子様に資産管理を任せられるよう、ファミトラが信託監督人となり、継続的にサポートします。

ここで、照沼さんから「ご両親が資産を持つご家族のために展開されているサービスだと思いますが、ファミトラを利用することに対して慎重な方も多いのではないでしょうか。実際にはどのような方が利用されているのでしょう」と疑問が投げかけられました。

日本ベンチャーキャピタル株式会社 シニアパートナー 照沼大さん

宮下さん「我々のサービスを利用してくださる方は、80歳くらいのご両親がいらっしゃる、50歳くらいの現役世代。年末年始やお盆などに帰省し、認知症の兆候が感じられて心配して連絡をくださる方が多いです。

金融機関を利用するよりも、費用対効果にあったサービスを求めていらっしゃる方が多く、我々のアライアンスを結んでいる企業からの紹介などで選んでくださる方が多いように感じます」

日本における認知症罹患者の資産は、2030年に314兆円に達すると試算されており、その額は年々上昇しています。高齢化が進む日本においては、一大マーケットだと言えるでしょう。

「成年後見人制度のマーケットをリプレイスしていきたいです。その目標の実現に向け、現在は約200社を超える企業と提携しています。アライアンスを進めていく人材が不足しており、ご興味あればお声がけください」と呼びかけました。

 

ジャパンサイクルリーグ:自転車のロードレースで、日本を世界に発信

株式会社ジャパンサイクルリーグ

最後に登壇したのは、株式会社ジャパンサイクルリーグ 代表取締役の犬伏真広さん。同社は、「街がスタジアムになる」というコンセプトのもと、自転車ロードレースを主催し、世界中から観客を集めて地域経済を活性化させることを目指しています。

冒頭で、犬伏さんは自転車スポーツにおける世界の潮流について共有しました。

犬伏さん「サイクルツーリズムの市場が拡大しており、世界3大自転車レースの一つとして知られる『ツール・ド・フランス』では、単年の売上が200億円以上を超えると言われています。

自転車はスポーツという側面だけでなく、ビジネスとしても成長しています。実際に、GPSを利用したサイクリングやランニングの記録ができるWebサービスを展開している『STRAVA』という会社は、ユニコーン企業になりました。他にも、世界ではスポーツ専門のVCやアドバイザーがいたり、M&Aが起きたりしています。

日本での認知度は低いかもしれませんが、世界において自転車はメジャースポーツであり、大きなマーケットを持つビジネスだと認知されているのです」

株式会社ジャパンサイクルリーグ 代表取締役 犬伏真広さん

一般層からの認知度においては世界に遅れを取っているものの、日本でもサイクルツーリズムを国策として推進する動きが始まっています。ジャパンサイクルリーグは、三菱地所を始めとしたパートナー企業と共に世界中の選手を集め、日本の景勝地や観光地などで国際レースを開催。自転車ロードレースと共に、日本の魅力を世界中に向けて発信しています。

犬伏さん「2023年2月には、東京丸の内行幸通りエリアにて、自転車ロードレース『GRAND CYCLE TOKYO 丸の内クリテリウム presented by フィナンシェ』を開催しました。

日本で自転車ロードレースを広め、応援してもらうためには、日本人選手が活躍していく必要があります。私たちのチームは、これまでアジアランキング1位、グローバルランキング30位を記録しており、健闘しています。来年には、活動拠点をイタリアに移し、ツール・ド・フランスのトップチームの監督を務めている方をお招きし、世界で挑戦していきます」

ここで溝田さんからは、「なぜ、今このタイミングでイタリアに拠点を移す決意をされたのでしょうか」という疑問が投げかけられました。

MASSパートナーズ法律事務所 共同代表パートナー 溝田宗司さん

犬伏さん「産業化を推進するためには、競技性と収益性を両立させなければなりません。スポーツとしての面白さだけを追求していては儲からないし、とはいえ儲けようとするあまり、スポーツとしての魅力を損なってはならないのです。

より多くの方からの認知を得て、活動を支持してもらうためには、日本人の競技力を高めることは欠かせません。だからこそ、今イタリアに行くことで、スポーツとしての価値を高めていきたいと考えています」

最後に、犬伏さんは「私たちは、世界中の方から日本の自転車ロードレース、ツーリズム、国土に投資をしてもらい、日本のいいものをPRし、繋いでいくことをビジネスの本質として捉えています。自転車スポーツを通して、地方をPRしていきたいです」と熱い想いを語りました。

質疑応答では来場した参加者からもさまざまな質問が飛び、社会に大きなインパクトを与えうる事業の創造と推進について、積極的に知見を得ようとする様子が見受けられました。また、ピッチ終了後に開催した交流会では、登壇者と参加者の間に新たなつながりも生まれました。

丸の内フロンティアは、時代のトレンドに合わせたさまざまなイベントを企画・実施していきます。次回以降もぜひご期待ください。

 

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